再就職こぼれ話
新聞社の人たちの再就職について話を聞く機会があった。
新聞社はせいぜい数千人規模で、編集・営業・印刷の3つの職場から成っている。定年後の再就職は、職場によって異なっている。
編集は気位が高いから再就職に苦労するらしい。
定年後、大学でジャーナリズム論を教えたり、評論家として活躍する人が出る一方、そうしたチャンスに恵まれない場合、一般の再就職はかえって難しい。
営業は新聞販促と広告獲得が主たる業務で、そうした仕事絡みの関係会社への再就職が多い。ただし、この場合はある年齢で順送りに「ご苦労さん」ということになる。
そこへいくと、印刷の高卒の人はたくましく生きて行くそうだ。
新聞社の印刷は夜勤が多いから、ビルの管理人など夜勤もある仕事に向いていて、引く手あまたという。
設備に関することなども苦手とせず覚えるので、重宝され、長く勤めるケースが多い。
彼らは、仕事は仕事で割り切ってはいるが、仕事だけの人間は少ない。
かって高校で成績優秀だったが、家庭の事情で進学できず、一流新聞社に就職した人たちだから、多くが人に誇れる余技や趣味を持っているという。
再就職後の人生は、編集や営業の人より充実していると言っても良い。
この話から、Iさんのことを思い出した。
IさんはW大学を卒業して大手の会社に就職。そこまでは順調だったが、工場に資材を売り込む営業の仕事が合わず転職した。
しかし、そこもしっくり行かず再転職するうちに出世の芽が断たれ、徐々に居づらくなってしまった。
それでも高校時代の友人が中小企業の社長になっていて、Iさんを救ってくれたが、そうこうするうちに定年となった。それ以上無理をいう訳にはいかず、身を引いた。
Iさんの苦労はむしろ定年後だ。人と比べると年金が少ないのである。
それで再就職先を探したが、適当な仕事が見つからなかった。
最後の頼りは「公」である。シルバー人材センターで駅前の駐輪場の管理人の仕事を得た。
わずかな収入であるが、Iさんにとっては貴重な働き場所である。
Iさんに聞いたら「気楽な仕事ですよ。ただ、いろんな人がいるので腹を立てないこと、腹を立てたらやっていけない。」
「毎日数人で一緒に働いているが、困るのは定年前の会社で偉かった人。
文句を言うだけで、自分では何もしない。今は偉くないのだから、カミシモを脱がなければならないのだが、偉かった人はそれができないんだね。」と言っていた。
出世コースから外れたIさんの人物観察である。
大企業で働いた人は、それなりの経験と専門性を持っている。定年後もそれを活かして働ければ一番良いのだが、それを活かす機会が得られるとは限らない。
そういう場合は、まず、カミシモを脱ぐことが必要なのかも知れない。