【2014年振返り】相次いだ外部社長起用-注目されるプロ経営者-
2014年は外部から社長を起用する異例のトップ人事が相次いだ。
プライスウォーターハウスクーパース・ストラテジーの実態調査によると、外部からのトップ起用は北米企業で23%、欧州企業で25%であるのに対し、日本企業では3%しかない。2014年が特異な年だったのか、それとも今後のトレンドになるのか、事例を振り返りながら占ってみよう。
まず、新浪剛史ローソン社長のサントリーホールディングス社長への転身。
サントリーは鳥井信治郎が創業、長男吉太郎が早死にしたため2代目社長は佐治家に養子に入った次男の佐治敬三、3代目は吉太郎の息子の鳥井信一郎、4代目が佐治敬三の息子の佐治信忠(現在69歳)であった。
佐治信忠会長兼社長は2014年5月米ビーム社を1兆6500億円で買収、サントリーは蒸留酒売上で世界10位から3位に駆け上がった。その彼がほれ込んだのがローソン社長の新浪剛史(現在55歳)で、2014年10月サントリー社長として迎え入れた。記者会見では「新浪氏の国際性とバイタリティーに期待している。二人三脚でグローバル化を進めたい」と。
サントリーには3代目社長鳥井信一郎の息子信宏(現在48歳、サントリー食品インターナショナル社長)が控えており、次期社長と目されていたのだが、年齢的に社長には早いと考えての中継ぎと見られている。
新浪剛史は慶応を出て三菱商事に入社。食料品部門からハーバードに留学しMBA(経営学修士)取得。その後ローソン事業担当を経て2002年5月にローソン社長に就任した。自信家の新浪はトップダウン型経営合理化により、セブン・イレブンの追撃を進めようと臨んだが、ローソン加盟店を見て回るうちに加盟店重視・顧客重視の方針に切り替えた。画一的であったローソンの多様化(ナチュラル・ローソン、ローソン100、ローソンマート等)を進め、宅急便取扱・チケット販売・公共料金取扱・郵便取扱など次々と利便性を付け加えた。セブン・イレブンの追撃を優先目標とはせず、コンビニの有るべき姿をたゆまず追及し、11年連続増益の成果を挙げた。
サントリーでどのような手腕を発揮するか、期待がかかる。
その新浪がローソンの後継社長に選んだのは玉塚元一(現在52歳)である。
玉塚はファーストリテーリングが業績悪化した2002年に柳井正社長から後継社長に指名されたが、その後徐々に会長の柳井と反りが合わなくなり、2005年に事実上解任させられた。
玉塚は慶応ラグビー部の名選手として活躍し、旭硝子入社後、海外留学し経営学修士2つを取得。
柳井は一時期異業種から多くの人材を引き抜いて来た。自著「一勝九敗」にその理由を「異業種の人のほうが、この業界の常識にとらわれずに、『なぜだろう』『どうしてだろう』と原理原則から取り組むからだ。同業種だと、『こうなっているのが当たり前』とみなして、無理・無駄の存在する現状を肯定して進もうとする。改革には現状否定が欠かせない。わが社には自分で本当に考え、判断できる人、さらに言えば『働かされる人』でなく、『経営ができる人』が必要なのだ」と明かしている。
しかし、ワンマンの柳井は自分以外の誰のやり方にも満足せず、結局はほとんどの人が柳井のもとを去って行った。玉塚は明るいスポーツマンで実行力もあったが、ワンマンの柳井にシンから気に入られることはなかった。
その後、新浪に拾われローソンの副社長に就いていたが、2014年5月ローソン社長に就任。ローソンに健康サロンやイベント・キャンペーンを採り入れる更なる進化を引き継いでいる。
業績の低迷に苦しむ資生堂は2014年4月外部から魚谷雅彦(現在60歳)を社長に起用した。
魚谷氏は同志社卒、競争相手のライオンから海外留学しコロンビア大学MBA取得、その後米大手食品会社の日本法人副社長を経て日本コカ・コーラの社長・会長を歴任した。「高いマーケティング能力と強いリーダーシップを持ち、グローバル感覚もある」が起用の理由である。
またベネッセは2014年6月原田泳幸(現在66歳)を社長兼会長に迎えた。
原田泳幸は東海大学通信工学科卒、IT関係会社を幾つか経て、米アップルコンピュータ副社長兼アップルコンピュータ日本法人社長に就任した。その後、全く畑違いの日本マクドナルド社長に迎えられた。低価格路線で利益の出なくなっていたマクドナルドであったが、11秒でパン焼きのできる機械を全店舗に導入してスピードアップを図る、メニューを増やし特色ある高額品も置く、ブランドイメージを回復するなど、1年で改革断行し業績向上を果たした。
今回ふたたび畑違いの通信教育・出版のベネッセへ転身したが、手腕を発揮するか注目される。
武田薬品工業は国内トップだが、世界では10位。世界的製薬会社を目指す武田は最近M&Aを乱発して来た。
その武田がフランス人のクリストフ・ウェーバー氏(現在48歳)をヘッドハンティングし、2014年6月社長に据えた。
ウェーバー氏はリヨン第一大学出身の薬学博士で、イギリス製薬大手のグラクソ・スミスクラインの子会社(年商6000億円、社員12,000人)の社長でアジアを含む7ヶ国での勤務経験を持つ。
この仰天人事には疑問・反対も多かったので、長谷川閑史会長が雑誌プレジデント2014年2月号にウェーバー氏起用の理由を明かす一文を寄せた。「グローバル市場では今ビジネスの既存の枠組みが次々と崩れ、同時に新興国市場が成長の原動力になろうとしている。武田のトップとして次のフェーズへと変革し、リードしていくにはどんなプロファイルの人物が必要なのか。社内の人材と獲得可能な社外の人材の中から候補を絞り、最終的に指名委員会が面接を行った結果、選んだのがウェーバー氏である」と。
外部社長の起用は、日本企業がそれだけ厳しいグローバル競争にさらされており、従来の社内発想の枠組みを超えた経営感覚や事業戦略が求められている証左である。そうしたニーズは必ずしもトップに限らない、そういう時代に入っていることを肝に銘じなくてはなるまい。