時給1,800円と年俸1,500万円の派遣スタッフ

私はM重工の子会社で新事業開拓の担当取締役をやった時期がある。

約40もの様々な事業のフィージビリティスタディをやったが、人材派遣と有料職業紹介は経済状況の比較的良かった時期であったこともあり、軌道に乗った事業の一つであった。
派遣者の多くは女性の一般事務職で、顧客から1800円/H程度を貰い、派遣社員に1300円/H程度を支払う(地域により価格差あり)。
3割近く「さや」があるように見えるが、社会保険の事業主負担と有給休暇差額(顧客に請求できないが派遣社員に有給休暇を取らせる)を差し引くと、手元に残るのは7~8%にしかならない。

そういう中で利益源になるのは固有の技術・経験を持ったエンジニアや専門家であった。
固有の廃棄物処理技術を持ったエンジニアは1500万円/年以上の売上が立った。
採用ノウハウのない企業に募集・採用・配属後フォローが出来る専門家を売り込み、これも比較的高額で派遣が出来た。
その企業は生産の急拡大に伴って現場技能職の大量増員を必用としており、大いに感謝された。(いずれも定年後の人材)
また、技術士資格を持つ機械技術者は既に70歳超であったが、
建設業法の専任技術者を探していた企業にとっては得難い有資格者であり、年齢の割に高額での採用が決まり、紹介料をしっかり頂くことが出来た。

成功例がある一方、溶接・非破壊検査の専門技術者は売込み先が確保できず不成立に終わった。その技術者はもともと鉄構造物の専門家で鉄の構造強度・溶接欠陥・腐食など全てが見抜ける一級の技術者であったが、後にコンクリート構造物に係る業務経験も積んでコンクリートの構造強度や隠れたる欠陥も見抜ける万能の技術者に育っていた。彼から相談を受ける少し前の2007年8月にアメリカのミネアポリスの高速道路橋が突然崩落して60台の車が転落し多くの死者を出す事故があり、その種の技術者のニーズが十分にあると考えて研究調査機関等に売込んだが、高額エンジニアであったこともあり予算が付かず流れてしまった。

半導体技術の世界有数の技術者から相談を受けたこともあった。そのレベルになると売込み先は限られており、本人の了解を得てテキサス・インスツルメンツの採用担当重役にレターを書いたが、これも成功はしなかった。

また、ロシアの老朽原子力潜水艦4艦を日本政府が援助して解体するというプロジェクトがあり、その解体作業(解体作業自体はロシアの業者)の進捗評価をする技術者の派遣要請を受けたことがあった。M重工は潜水艦も原子力発電プラントも設計・製造していたのでこれこそ私の出番と思い技術者確保の調整を試みたが、ロシアビジネス特有の事情で進め得なかった。
いずれも7~4年前のことであるが、固有の技術・経験を持ったエンジニアや専門家は個別性が際立っているだけにマッチングが難しいと感じたものである。