在宅勤務-必要性と課題とは-
消費者庁は7月1日から9月までの3カ月間、管理職全員に週1回の在宅勤務を義務付けると発表した。課長・室長以上の管理職にタブレット端末を支給し、業務を自宅で行えるようにする。子育てや介護中の職員が在宅勤務をしやすくなるよう、管理職の理解を広げることが狙いで、9月以降は段階的に対象を広げる予定だ。
在宅勤務を希望する人とは
「在宅勤務」という言葉がいわれ始めたのは、かなり昔の話だ。マスコミなどでも通勤地獄がない、自分自由な時間に働ける、などまるで夢のような勤務形態として盛んに取り上げられた。しかし一向に普及する気配がない。しかしその間に状況はより逼迫の度を深めているようだ。
子育てのために在宅勤務を希望する女性は多い。とくに共働きの世帯が増加している今日では、保育園へのお迎えや家事との両立をはかるため、時短勤務や在宅勤務のニーズは以前より増している。
しかし実は、在宅勤務を希望するのは女性だけではない。とくに切実なのは、30〜40代の男性、まさに働き盛りの年代なのだ。
この記事(在宅勤務、30〜40代の男性にとっても必須の働き方に)でテレワークマネジメントの田澤由利さんは、こう指摘している。
50代の方ならば、妻に親の介護をお願いできる人もいるでしょう。しかし、共働きが増えている30代、40代の人は、妻も働いている場合が多い。また、独身男性が増える一方、少子高齢化で兄弟の数は減っている。いざというときに、夫が、男性が介護を行うということは十分に考えられる。場合によっては夫も妻も、両方介護を行うことがあるかもしれない。そんな時に、在宅勤務の制度が勤め先にあれば、仕事を続けられる
介護のために退職せざるを得ない状況
個人的にも、母親の介護のため高級官僚の座を辞した知人がいる。
女性に対する育児休暇制度の実施、徹底は、最近話題になることが多い。しかし女性ならまだしも、男性がこの制度を利用することは日本企業ではなかなか敷居が高いのが現状だ。
しかし同様に、あるいは今後はより一層注目すべきなのが、子育てではなく、親の介護をするために会社を辞めざるをえない、つまり介護離職を避けるための環境・制度の整備なのではないだろうか。
2013年の総務省の発表によると、現在、働きながら介護をしている人は男性社員290万人にものぼるという。つまり介護と仕事の板挟みになり、身体的・精神的に疲弊する働き盛りの男性が急増しているらしいのだ。そして疲れきった男たちは、やむなく介護離職という道を選ぶ。この傾向は、今後ますます拡大していくことだろう。
テレワークという働き方
こうした問題を解決する一つの有効な手段が、「テレワーク」である。テレワークとは、ITC(情報通信技術)を活用することで、仕事先の場所や時間に縛られることなく、自由に柔軟に働くというワークスタイルのこと。
ただし一部のIT企業を除き、ほとんどの産業分野でテレワークは普及していない。その理由として、人間関係が希薄になる、チームでの仕事がやりにくい、人事管理が複雑になる、といった声が従来からあった。しかしチャット会議やグループウェア、クラウド・コンピューティングなど最新のITを利用すれば、そうした問題は今ではほぼクリアできるのではないか。
さらに個人へのスマホ、タブレットなどのデバイスの普及が、それらテレワークによる在宅勤務の環境実現をさらに後押ししている。個人が所有しているそれらのデバイスを、業務に活用しようとする動きが、最近顕著になっているからだ。
ちなみにこうた流れは、「BYOD(Bring Your Own Device)」と呼ばれ始めてもいるそうだ。
ただしそのためには、従来の業務プロセス、意思決定プロセスを、若干、あるいは大幅に変更、組み直す必要がある。しかし、現実的に可能性があるのだから、あとは経営層の決断次第だろう。そこからテレワークによる在宅勤務、つまりは介護離職を防ぐために必要なノウハウやルールが積み上がっていくはずだ。
今回の消費庁の試みが、在宅勤務を利用する会社も人も少ないという日本の状況を打破するための大きな一石となってほしいものである。