日本郵政・IBM・アップルの提携を占う
2015年4月30日、日本郵政の西室社長がニューヨークで、IBM・アップルの両トップと共同記者会見を行った。高齢者の安否を確認するサービスや、「かんぽ生命」の保険金支払業務の効率的な仕組みづくりで3社提携をするとの発表である。
日本郵政は2013年10月から社員が高齢利用者宅の様子を訪問・確認し、遠くの家族に知らせる「郵便局のみまもりサービス」を一部の地域で開始している。今回の提携は、アップルのiPadなどの移動携帯端末を使い高齢者の在宅時の状況や外出先所在地等の情報を収集し、IBMの人工知能型コンピューター“Watson”で解析、より高い精度で異常を察知して安否の確認ができるシステムを構築するという。
会見場で移動携帯端末を使って、病院予約、服薬指示、荷物受取りのデモを見せたが、目新しい技術のお披露目はなく、ビッグネームがそろった割にはいささか拍子抜けがした。
日経が同日付新聞の記事にしているが、3社提携の評価をしあぐねており、記事の扱いも小さい。
高齢者の見守りは、セコムなどセキュリティ会社が早くから展開している事業分野で、不審者の家への侵入はもとより、家の中の赤外線センサーなどで本人に問題が生じていないかを解析・判定し、疑わしい時には緊急スクランブルをする。
押売りの訪問など不安を感じるケースでは、高齢者が通報してのスクランブルサービスもあるので、警備事業をやっていない日本郵政が勝てるのは、セキュリティ会社がカバーしきれない本当の過疎地ぐらいではなかろうか。
セキュリティシステムに特化して言うと、例えばエレベーターの中での挙動解析から犯罪行為が発生していないかを見極めたり、プールの遊泳者の挙動解析から溺れかかっている者がいないか等を解析する技術開発も進んでいるが、これらはIBMが先行している分野ではない。
一方、高齢者向けロボットは、様々なタイプのものが、固有技術を持ったそれぞれの会社・研究所で開発されている。
例えば富士ソフトの人型ロボット“PALRO”は人工知能で言葉を話し、ネットワークを通じて情報の収集や伝達をする。小売価格約70万円(レンタルは月額 約3万円)であるが、これを親の家に配備すれば、日々の健康状態の把握も当然できる。
独立行政法人 産業技術総合研究所が開発したアザラシ型ロボット“PARO”は声をかけると約20種類の鳴き声で応え、体を愛らしく動かしたりするセラピーロボットである。介護や見守りに役立つものではないが、40万円程度以下の価格で販売され結構売れている。
筑波大学システム情報工学研究科が設立したサイバーダイン社は、四肢の不自由な人が着用するモバイルスーツを開発している。脳が筋肉に送る生体電位信号を検出して人工補助手足を稼働させ、自由に身動きができるようにする実用製品の開発を進めている。
このように介護事業の前線が大きく広がっている中で、今回の3社提携は何を狙っているのか?
IBMの人工知能“Watson”はチェス・チャンピオンを打ち負かした“Deep Blue”の後継システムであり、2011年にはアメリカで人気のテレビクイズ番組に出場し、クイズ王2人に圧勝した。その際、書籍100万冊分の知識を詰め込んで臨んだという。2015年3月には日本語も修得し、三井住友銀行の電話相談窓口に導入が決定した。楽に百人力以上の働きをするだろう。スグレモノなだけに、今回の3社提携の中でも重要な役割を演ずるのではないか、期待は大きい。
ただ、今現在は日本郵政がうたう「総合的ライフスタイル・サポートサービス」の提供といったイメージがあるに過ぎず、何も見えてはいない。
IBMとアップルは昨年から互いの強みをさらに活かすべく連携を開始しており、そこに格好の研究開発の舞台を得たというのが、今回の3社提携の構図なのではなかろうか。IBM・アップルにとっての当面のメシの種になるし、少子高齢化の進む日本で新たなサービス事業分野を構築することができれば、世界中に展開ができる。彼らの眼は間違いなく遠くをも見ている。
日本郵政が利用されるばかりでなく、確かな将来展望を持った取組みを展開し、それだけの成果が挙がることを祈りたい。